豪雨のなか、ジャケットの肩を雨に濡らしながら帰宅。(不意にやってきた)いたずら心で、奥さんを驚かせようと計画。そぉーっと鍵を回して扉を開ける。ピシッという床の軋みの音さえも立てぬように歩く。忍者の如く。すうーっと扉を開けると、思ったより驚かない。しかも、逆にぼくが驚かせられることになったのだ・・・。
彼女が突然に、涙を流しはじめる。
えっ、なになに?!
なにかしたっ?!
そんな心の声など、つゆ知らない彼女はティッシュに手を伸ばして涙を拭う。しばらくは、お互いに声を交わさず、しばらく時が流れた。そしてぼくは、彼女がことばを出すのを待った。
「わたし、頑張れてないな・・・」
泣き笑いのようなあいまいな表情で、声をしぼり出す。その後ろでは、ももいろクローバーZのLIVE「男祭り」が流れていた。
奥さんは時折、突然涙を流しはじめる。ここ最近の覚えているだけで、これが3回目。六本木ヒルズで『君の名は。』を観たとき。ディズニーシーで、最後のパレードを観たとき。そして今回、ももクロのLIVEを観たときだ。
不思議なことに、そのことについて、ちょうど一年前の昨日、ぼくがFacebookに投稿していた過去記事がタイムラインに表示されていた。そのまま転記したいと思う。
もう何度紹介したかわからない、
大ヒット映画「君の名は。」。
彼女と一緒に、再び見に行ってきました。映画が終わって、
隣を見ると彼女が泣いていました。やっぱりいい映画で感動したのかな、
と思って「どこが良かったの?」と聞くぼく。「ストーリーが良かったんじゃないの」
予想外の答えを返す彼女。
「あなたが、こんなことをやりたいんだろうと思って見てた。
こんな作品を作りたいんだろうなって」そしてなんと、
「ぼくがプロデュースした映画の試写会を
一番後ろから2人で見てる未来」
が垣間見えたそうなのです。そんなことを涙ながらに話す彼女の隣で、
なぜか流れる涙を止められませんでした。◉ 「君の名は。」の影響力。
この作品は、娯楽であり学び。
いや、学びという堅苦しい言葉は適切じゃない。押しつけるでもなく、
意識が変わる。
行動が変わる。何となく。
変わる。「よーし、人生変えるぞ!」
意気込むでもなく、
暮らしに溶け込んだ変化が起こる。
なんだかよくわかなないけれど、
深いところから、静かに変わる。恋愛に前向きになったり、
いま隣にいるパートナーに疑いを持ったり、
だからこそ、そのパートナーと出会い直したり。前世の存在が気になったり、
今に感謝の気持ちが生まれたり、
未来の運命に希望を感じたり。もちろん映画ではないかもしれないけど、
ぼくもそんな作品を作りたい、そう思います。◉ 本当の自分を思い出す。
いい作品に触れると、
いい仕事に触れると、
胸が高鳴り、インスピレーションが刺激されます。「本当にやりたかったことって何だっけ?」
「どんな基準でやりたいんだっけ?」映画だけでなく、音楽や芸術もそうだし、
一流の経営者、セールスパーソンに会ったときもそうです。胸の奥にある何かが、動き出します。
ただ最近、いろんな方のプロデュースを
していて発見したことは、
別に一流の作品や人ではなくても、
その人らしい自分の道を追求している人に
触れたときにも、同じようなことが起こります。「仕事って何か?」
あまりに当たり前のことだけど、
奥深いテーマについて考えてしまう。
全力で生きているだろうか。
彼女とともに、しばらく呆然とした無言の時間を過ごす。気が済むまでそうしたのち、それぞれの心情を話し合った。
台風のはずの家の外も、案外と静かなもので。ぼくたちの気持ちを察してくれたのだろうか。